2014年11月30日日曜日

世界遺産登録の概念の変化

1990年代初頭までは記念物や建造物が作られた当時のままで残されていることが重視されたため、ヨーロッパの教会や中世の城が多く登録された。
リストに不均衡が生じることが懸念されたため以下の方策が取られた。

1992年 文化的景観
人間が自然と共につくり上げた景観を指す概念。文化遺産と自然遺産の境界に位置する遺産。1993年、ニュジーランドのトンガリロ国立公園が初めて適用された。
文化的景観の3つのカテゴリーは以下のとおり。

  • 意匠された景観:人間によって意図的に設計され創造された景観。庭園や公園、宗教的景観など。
  • 有機的に進化する空間:世の要求によって生まれ、自然環境に対応して形成された景観。産業とも関連している。内訳は、1.「残存する景観」既に発展過程が終了している。2.「継続する景観」現在も伝統的な社会の中で進化する。
  • 関連する景観 自然の要素がその地の民族に大きな影響を与え、宗教的、芸術的、文学的な要素と強く関連する景観。


1994年 グローバルストラテジー
 「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表性、信用性確保のためのグローバル・ストラテジー」
世界遺産リストの不均衡を是正するための戦略。基準の見直しや世界遺産をもたない国からの登録強化、産業に関連する遺産の登録強化、先史時代や現代の遺産の登録強化。
既に世界遺産リストに複数の遺産が登録されている国に対し、推薦の間隔を自発的にあけることや、登録の少ない分野の推薦、世界遺産をもたない国の推薦と連携を求めている。









世界遺産に関係する機関


世界遺産条約締約国会議

  • 世界遺産条約を採択した全締約国による会議。
  • 世界遺産基金への分担金の決定や監査、世界遺産委員会委員国の選定の他に、世界遺産委員会から提出された活動報告を受理する。


世界遺産委員会

  • 21カ国で構成され、通常1年に1度開催される政府間委員会。
  • 世界遺産リストの記載に関する審議、危機遺産リストの審議、基金の使途の決定、作業指針の改定などを行う。
  • 委員国の任期は6年だが、各締約国に均等に機会が与えられるように4年で任期を終えることや再選を自粛することが望ましい。


世界遺産センター

  • パリのユネスコ本部内に常設されている世界遺産委員会事務局を担う機関。
  • 1992年設立。
  • 推薦書の受理や登録、世界遺産委員会の運営、広報活動などを行う。


ICOMOS

  • 国際記念物遺跡会議。
  • パリに本部を置くNGOで、ヴェネチィア憲章を元に採択の翌年1965年に設立。
  • 建築物や考古学的遺産の保全のための理論や方法論、保全への科学技術の応用を推進している。


IUCN

  • 国際自然保護連合。1948年設立
  • スイスのグランが本部のNGO。
  • ユネスコやフランス政府、スイス自然保護連盟などの呼びかけによって設立。
  • 世界中の科学者を支援することを目的にしている。


ICCROM

  • 文化財の保全及び修復の研究のための国際センター。
  • 本部をローマに置く政府機関。1956年にユネスコによって設立。
  • 不動産や動産の文化遺産の保全強化を目的とした研究や記録の作成・助成、技術支援、技術者や専門家の支援要請、普及・広報活動などを行う。


世界遺産登録の流れ

1.各国政府
世界遺産条約を締結
自国内の暫定リストを作成・提出
リスト内の物件の中から要件が整ったものを推薦

2.世界遺産センター
各国政府からの推薦書を受理
物件の現地調査を依頼

3.自然遺産の場合はIUCN、文化遺産の場合はICOMOS
調査
調査結果を報告

4.世界遺産センター

5.世界遺産委員会
候補地を審査し、世界遺産リストへの記載を決定

世界遺産の登録基準

1:人類の創造的資質を示す傑作
2:文化交流を証明する遺産
3:文明や時代の証拠を示す遺産
4:建築技術や科学技術の発展を証明する遺産
5:独自の伝統的集約や、人類と環境を示す遺産
6:人類の歴史上の出来事や伝統、宗教、芸術と関係する遺産
7:自然美や景観美、独特な自然現象を示す遺産
8:地球の歴史の主要段階を示す遺産
9:動植物の進化や発展の過程、独自の生態系を示す遺産
10:絶滅危惧種の生息域で、生物多様性を示す遺産

世界遺産登録の条件

1.遺産を保有する国が世界遺産条約の締約国であること
ただしユネスコの加盟国である必要はない。
かつてユネスコ脱退中のアメリカから世界遺産が登録されたことがある。

2.遺産が予め各国の暫定リストに記載されていること
締約国は「暫定リスト」作成し、ユネスコの世界遺産センターに提出しなければならない。

3.遺産を保有する締約国自身からの推薦であること
顕著な普遍的価値が明らかな遺産であっても、遺産保有国以外が推薦することは出来ない。
唯一の例外は国際状況を考慮しヨルダンが申請した「エルサレムの旧市街とその城壁群」のみ。

4遺産が不動産であること
遺産は土地や建物などの不動産でなければならない。

5.遺産が保有国の法律などで保護されていること
遺産を保護・保全する義務と責任は遺産保有国にあるため、世界遺産登録を目指す遺産は各国の法律で守られていなければならない。

世界遺産誕生までの流れ

1931年 アテネ憲章採択
世界遺産条約の考え方につながる概念が出された
修復方法で近代的な技術や材料の使用を認めている点が世界遺産条約と異なる

1945年 ユネスコ憲章採択
第2次世界大戦終結、大戦を教訓に。
戦争は人の心の中に生まれるものだから、人の心の中にこそ、平和のとりでを築かなければならない。

1948年 IUCN設立
国際自然保護連合。ユネスコ主導で設立。スイスのグランに本部。
国や民族などを超えて自然を守っていく方法が整えられる。

1954年 ハーグ条約採択
武力紛争の際の文化財の保存に関する条約
非常時における文化財を守るための基本方針

1960年 ヌビアの遺跡群救済キャンペーン
ユネスコは経済開発と遺産保護の両立に取り組むべくキャンペーンを開始。
アスワン・ハイ・ダムの建設によって水没してしまうアブ・シンベル神殿やフィエラのイシス神殿を救った。
地盤悪化により水没しつつあるヴェネチアの救済キャンペーン(1966年)
風雨による劣化が進んでいたボロブドゥールの救済キャンペーン(1968年)

1964年 ヴェネツィア憲章採択
第2回「歴史的記念建造物に関する建築家・技術者国際会議」が開催されヴェネチィア憲章が採択。
アテネ憲章で示された記念物や建造物の保存・修復の重要性を引き継いだ。
一方で、修復の際には建設当時の工法や素材を尊重すべきとする「真正性」の概念が示された。

1965年 ICOMOS設立
国際記念物遺跡会議。ヴェネチィア憲章に基づき設立。パリに本部。

1972年 世界遺産条約採択

1978年 最初の世界遺産12件が誕生

1992年 日本が世界遺産条約批准
1992年 ユネスコの世界遺産センター設立
パリのユネスコ本部に常設され、世界遺産委員会事務局を担う機関。
委員会の運営や広報活動を行う。

世界遺産条約と世界遺産

世界遺産条約と世界遺産

人類や地球にとってかけがえのない価値をもつ記念建造物や遺跡、自然環境などを、人類共通の財産である「世界遺産」として保護し、次の世代へ確実に伝えてゆく取り組み。顕著な普遍的価値をもつものが世界遺産リストに記載される。1978年に最初の世界遺産12件が登録された。


世界遺産条約

  • 8章に分けられる全38条からなる。
  • 文化遺産と自然遺産を人類共通の財産として保護・保全することを目的にしている。
  • 遺産の定義、リストの作成、世界遺産委員会や世界遺産基金の設立、遺産保護のための国内機関の設置や立法・行政措置の行使、国際援助などが定められている。
  • 遺産を保護、保全する義務や責任はまず保有国にある。
  • 締約国は、遺産の保護・保全に協力すべきことが書かれており、これは遺産が特定の文化・文明、自然環境に属することを各国が尊重しつつ、人類全体の遺産として守り伝えてゆくことを示している。
  • 教育・広報活動の重要性や社会生活のなかで機能・役割を与える必要性も書かれている。



ユネスコ

  • 平和な世界の実現と福祉の促進を目指している。
  • 第2次世界大戦後の1945年11月にユネスコ憲章が採択された。


2014年11月4日火曜日

古都京都 の文化財(京都府・滋賀県)

文化遺産 1994年登録 登録基準2,4
各時代を象徴する建築様式が守られる「千年の都」

京都は794年に長岡京から平安京が誕生して以来、およそ1,000年にわたり、日本の首都として繁栄した。平安遷都から1,200年の節目であった1994年、寺社と城の17件が『古都京都の文化財』として世界遺産に登録された。京都市の14件、宇治市の2件、滋賀県大津市の延暦寺が含まれる。

教王護国寺(東寺)や延暦寺のように、災害や戦災で一度は喪失した建造物も多い。しかし時の権力者や町衆と呼ばれる有力市民らの手で再建・保存され、創建当時に近い姿を残すことから、世界的にも極めて高い評価を得ている。

上賀茂神社;賀茂別雷命を祭神として、7世紀末創建。背後の「神山」も構成資産に含む。
下鴨神社;7世紀末に創建。国宝の東本殿は三間社造り。「糺ノ森」も資産構成に含む。
清水寺;「清水の舞台」として有名な本堂の起源となった建物は坂上田村麻呂の建立。
延暦寺;785年に最澄が建てた草庵を起源とする天台宗の総本山。
平等院;1052年に藤原頼道が仏道に改める。阿弥陀堂(鳳凰堂)が現存。公家社会の文化が伺える。
宇治上神社;1060年頃に創建された日本最古の神社建築。
高山寺;起源は8世紀創建の寺院。石水院は鎌倉時代初期の寝殿造り様式を伝える。
鹿苑寺;舎利殿(金閣)には、寝殿造り、書院造り、禅宗様の3様式が見られる。
慈照寺;山荘東山殿が起源。観音殿(銀閣)と東求堂は後世の茶の湯文化に影響を与えた。公家文化と武家文化が融合し、「わび」「さび」の美意識が重視された。
龍安寺;1450年に創建。白砂に15の石組を配した石庭は枯山水の代表作。
二条城;徳川家康が1603年に造営。庭園は茶人である小堀遠州の作庭とされる。